* * *
「ごめんなさい…侑のことは好きだけど、彼の方をもっと好きになっちゃったの…」
”だって彼バスケ部のエースだし社長の息子でブランドのバッグも買ってくれたんだよ”
「宮、すまない…どうしても彼女のことが諦められなかったんだ…!」
”ちょっとぐらい顔がよくてちょっとぐらい家が金持ちでバレー部のレギュラーだからって調子に乗ってて目障りだったんだよな、こいつ。彼女獲られてどうだ?悔しいだろ”
目の前には、申し訳なさそうに俯く男と女。
男の方はバスケ部のレギュラーで、女はつい昨日まで俺の彼女だった奴や。
まあしおらしいのは見かけだけで、中身は真っ黒やけどな。
知っとったけど。
「…好きになってしもたんはしゃあない。俺のことは気にせんで幸せになってや」
傷ついた風を装い健気な言葉を口にすれば、目の前の2人は目元をにじませ喜色を顔に浮かべる。
見かけだけな。
「…宮!」
”あれ?思った程悔しがらなくね?なんで?この女のこと好きだったんだろ?もっと悔しがれよ!”
「ごめんねごめんね、侑のこと本当に好きだったよ」
”やっぱ世の中お金よねー”
「…短い間やったけどおおきにな」
寂しそな笑顔を貼り付けそう告げると、2人は感涙に咽び鳴き始めた。
あんたら役者になれるで。
ああうっとうしい。
たいがい見飽きたでこのパターン。
「宮!お前また彼女獲られたのかよ!」
”だからあの男に気をつけろって言っただろ!”
「あー、結果的にそういうことんなるん?」
「結果的も何もそうだろ!いいのかよ!あいつ、許さねえ!」
”バスケ部の先輩に頼んで部にいられなくしてやる!”
「女の方も何考えてんだよ、付き合ってまだ1ヶ月だろ?」
”ありえねー!”
一部始終を物陰から見とった友人たちに声をかけられる。
このやりとりも毎回同じやな。
「まあ好きになってしもたのはしゃあない、彼女と別れよ思っとったさかいちょうどええんや。あいつらが悪いわけじゃおまへん、なんもせんといてや」
「…どこまで人がいいんだよ」
”あいつらのこと庇ってるつもりかよ”
「安心しろ。お前は何も悪くないって俺らも周りの奴らもわかってんからな」
”これでまた宮の信奉者が増えるだろうなー。こいつほんと聖人君子の生まれ変わりかよ”
慰めのつもりか励ましなのか、ありがたーいお言葉を頂戴する。
嘘偽りのあらへん、本心からの言葉なんやけどな。
信じてもろたことは1度もあらへん。
元々、王子様どうのお姫様どうの、乙女っぽい思考に惹かれ付き合い始めた彼女やった。(あたり前やけど告白は向こうから)
その実、金への執着が判明し(王子様は金持ちやからって考えやった。アホちゃうか)、別れる算段を練っとったとこや。
俺に対抗心を抱き、かつ彼女の望むスペックの男を見繕い、ちびっとずつ彼女と男を接触させた。
同時に、彼女にはちびっとずつそっけへん態度を取り始めた。
当たり前やけど俺の悪評を流されたらたまらへんから、おねだりは今までと同じように聞いたし連絡もこまめにした。
部活に支障のない範囲でデートもしたし、端から見れば完璧な彼氏やったはずや。
ほんでも彼女が、俺より優しくて貢いでくれて高スペックな男に言い寄られ、そいつに心変わりするのは時間の問題やった。
それが今日やったちゅうやけの話や。
女と別れるんは、相手にフラせるのが一番や。
俺には一切非のない理由でな。
そない仕向けるだけで俺の株は上がる一方。
簡単すぎておもろない。
「よし!今日は宮の失恋慰労会だ!」
”あんな女のことはさっさと忘れようぜ!”
「そうそう、お前のこと紹介してって頼まれてんだよ」
”超可愛い子だった!”
「どんな子?宮の好みのタイプ?」
”紹介を頼むぐらいだから顔は可愛いんだろうな”
「バッチリ。中身が可愛くて乙女で面白い子。どうだ宮、会ってみたいだろ?」
”危うく俺も好きになりかけたぜ。この子なら絶対気に入るって!”
「…せやな。会うだけ会うてみるわ」
「っし。明日午後練休みだったよな?2時頃でいい?」
”その子の友達も可愛い子ばっかだったから俺にも出会いがあるといいな~”
目に見えて浮かれ始める友人たちを横目に、俺の心は虚しさに満ちとった。
…どうせ、どの子も同じやろ。
その日の夜。
風呂から上がり自室に戻った俺は、毎度のようにチェストの一番下の引き出しを開ける。
引き出しの中に収められとるのは、サイズの小さい古びたボールとシューズ、プラスチック製の子供用水筒、4つの空き缶。
…どの子も同じ思いながら付き合うのは、たいがい俺もあの子を忘れたいから。
せやかてあの子に似た部分を探してしまう辺り、無駄な努力なのかもしれへん。
ボールに書かれている、消えかかった名前をなぞりながら、何度目ともわからへん言葉を呟いた。
「…どこにおるんやろな…影山…飛雄君…」
(同人誌へ続く)