【日向への「信頼」の芽生え】(烏野の出会い)

目次のところで『「信頼」は、相手を「信用」した先にある』と書いた。

烏野に行った時点で飛雄が「信頼」してるのは、「自分だけ」だった。
『レシーブもトスもスパイクも全部俺一人でやれればいいのに(1巻)』。

では「信用」は、どうだろうか?


◆◆【日向への「信用」の芽生え】◆◆
『勝ちに必要な奴になら誰にだってトスは上げる』
『でも、今のお前が、”勝ち”に必要だとは思わない』。
(共に1巻4話)

日向に向けたこのセリフから、飛雄にとっての「信用」=「”勝ち”に必要」と判断し「トスを上げる」ことだと思われる。
元々、日向の「運動神経」は認めてた(羨ましいとまで言っていた)けど、認めることと「信用」することは同義ではない。

日向以外のチームメイトにはトスを上げたことから、チームメイト(仲間)を「信用」していたけど、日向のことは「信用」していなかったことがうかがえる。

それが、3対3の試合に向けての練習の時。
無茶なボールに日向が追いついたことで、飛雄は初めて日向にトスを上げた。

『日向には”勝利にしがみつく力”がある気がする(菅原)』
『恵まれた体格、優れた身体能力、そういうのとは別の武器』
(共に1巻4話)

飛雄が、日向の「勝利への執着」を「信用」し、それがあるなら「打つ」と判断したためと思われる。


◆◆【「ボールを託す」】◆◆
その後、田中と日向のどちらにトスを上げるか迷った時。
日向の『居るぞ!(1巻)』のセリフで「トス無視事件」が頭をよぎり、飛雄は日向にトスを上げた。

この時の飛雄には『俺の言う通りにだけ動いてろ(10巻83話)』という思いはなかった。
なぜならすでに、田中にトスを上げようとしていたからである。
「俺の言う通りに」というなら、日向は無視して田中にトスを上げたはず。
それが『居るぞ!(日向/1巻)』=「だからおれにトス上げろ!」という日向の「要求」に応え、トスを上げた。

日向が「決められる」とは「思っていなかった」にも関わらず。
『日向はまだ真っ向勝負で月島に勝てない/1巻5話』

日向のセリフと「勝利への執着」を「信用」し、「日向なら”打ってくれるかもしれない”」と「信頼」し、トスを上げた。

これは飛雄が初めて他人(日向)を「信頼」し、「ボールを託した」瞬間だった。

その「信頼」に応え、日向はスパイクを決めた(ヘロヘロだけど)。
だから、この後の日向のセリフは飛雄に届いた。
『おれはどこにだってとぶ!どんな球だって打つ!だから』
『おれにトス、持って来い!!(1巻)』

これで飛雄の中で、「日向にトスを”持って”行けば、日向は打つ」という「信用」が確立された。

そしてこの「信用」と菅原のヒントを元に、「変人速攻」は生まれた。

それを引き出したのは、日向から飛雄への「信頼」があったから。
『おれにはちゃんとトス上がるから、別に関係ない(日向/1巻6話)』
『他人を100%信じるなんて、そうできることじゃないもんな(澤村/2巻8話)』

飛雄なら、必ず「トス」を「届けてくれるだろう」と「信頼」したから、日向は跳んだ。

日向が飛雄を「信頼」したから、飛雄は日向を「信頼」することができた。

「独り」では、決して生まれなかった「変人速攻」。
この技は飛雄にとって、「武器」以上に大きな意義を持っていたと思う。


◆◆【「トス無視事件」の果たした役割】◆◆
ところで「変人速攻」が生まれるのに、「トス無視事件」の果たした役割は大きい。

あの出来事は飛雄に「絶望」をもたらした。
飛雄にとっての「絶望」は、「バレーができなくなること」。
『俺が何かに絶望するとしたら、バレーができなくなった時だけだ(20巻)』

「トスの先に誰も居ない恐怖」=トスを上げても誰も打ってくれない=「バレーができない」。
飛雄のこの「恐怖」を知ったから、日向は言った。
『居るぞ!』
『おれにトス持って来い!』
(共に1巻)

「大丈夫!おれは居る!おれは打つ!」と。

その思いが飛雄に届き、「変人速攻」は生まれた。

それに上でも述べたけど、「恐怖」が頭をよぎったことで、飛雄は日向にトスを上げた。
この「恐怖」がなかったら、日向を無視して田中にトスを上げていたと思う。

だから「トス無視事件」がなかったら「変人速攻」は生まれてないか、できたとしてももっと後だったのではないかと思う。

それと。
北一では『俺のトスに合わせろ!(1巻6話)』だったけど、「トス無視事件」をキッカケに飛雄はそれをやめた。
それでは「バレーができなくなる」と気付き、散々言われた「スパイカーが打てるようなトスを上げる」ようになった。
それは東峰に、飛雄がトスの調子を聞いたことからもうかがえる(5巻36話)。

だから烏野でムチャブリトスを上げることはなく、飛雄は仲間として受け入れられていった。

ただしこの時の飛雄は「スパイカーが打てるトスを上げる」ことの本当の意味を、理解してはいなかった。


◆◆【成長の兆(きざ)し】◆◆
GW合宿時、音駒との練習試合。
犬岡に「変人速攻」を連続で止められた日向は、次のように言った。
『お前のトスと、あと…何か…何かの工夫で、打ち抜けるんじゃないかって思うんだ』
『だからもう一回、おれにトス上げてくれ』
(共に4巻30話)

一拍おいたのち、飛雄は答えた。
『当たり前だ(4巻30話)』

今までの飛雄だったら、日向の唯一の武器である「変人速攻」が止められた時点で「”勝ち”に必要ない」と判断し、トスを上げることはしなかったと思う。
実際、飛雄は答えるまでに「少しの間」を置いたことから、「日向にできるのか?」と「力」を「信用」していないことがうかがえる。
それが、すでに持っていた「日向にトスを”持って”行けば、日向は打つ」という「信用」と、日向がここで見せた「”勝ち”への執着」を「信用」し。
「こいつなら打ち抜くかもしれない」と「信頼」し、飛雄はトスを上げた。
再び日向に「ボールを託した」。

日向はそれを「打てなかった」けど、この時初めて『トスを見(菅原/4巻30話)』ることを覚えた。
そのため、その後日向は「普通の速攻」を「決める」ことができるようになった。

このことで飛雄の中で、日向への「信用」と「信頼」が深まることになった。


次章◆◆◆【「仲間」の「力」への「信頼」/脱「孤独な王様」】(IH予選~青城戦)◆◆◆