【日向への確かな「信頼」】(春高予選~青城戦)

飛雄のそれらの心境の変化は、セリフや行動にも如実に表れている。

角川戦で、百沢にビビる日向に飛雄はこう言った。
『お前本気でビビってんのか?(12巻102話)』

その真意は「東京合宿で速攻以外のことを練習したんだからビビる必要はない」と、後に説明している。
これは「(速攻以外にも)お前にできることはあるだろ」と言うことであり、それだけ日向を「信頼」してきている証だと思う。
実際、日向は速攻以外で点を獲った。

そしてIH予選、青城戦の時に知った仲間の「力」への「信頼」もまた、飛雄の意識を大きく変えていた。


◆◆【『”6人で強い方が強い”』】◆◆
青城を偵察に行った際、飛雄は日向に次のように言った。
『俺は一生、及川さんに勝てないのかもしれない(12巻106話)』

前の飛雄は逆だった。
『セッターとしては負けねえ(6巻50話)』(IH予選/青城戦時)

飛雄個人では「及川に勝てないかもしれない」のに『チームとして絶対に勝つ(12巻106話)』と言った。
これはそれだけ、「チーム(仲間)」の「力」への「信頼」が深まっている証だと思われる。
実際、日向だけでなく他のメンバーも確実に進歩していた。

このことは、条善寺戦で飛雄が鼻血を出した時、おとなしく交代したことからも読み取れる。
前の飛雄なら、「仲間は頼りにならない」=「俺がいないと勝てない」と判断し、鼻にティッシュを詰めてでも出ようとしたはず。

『留守は任せろ(日向)』
『センパイに任せなさいっての(菅原)』
(共に113巻111話)
これらのセリフが示す通り、「俺がいなくても大丈夫だろう」と「信頼」したから飛雄は交代した。

極め付けはこのセリフ。
『追い詰められても、そこをブチ抜く”火力”があるのが烏野の武器です(14巻122話)』

縁下に言われたセリフをなぞっただけだけど、飛雄は本音しか言わない。
だからこれは、飛雄の本心からの言葉だとわかる。

そして飛雄は気付いた。
「仲間」とはどういうものかを。
『”6人で強い方が強い”』
『今になってわかる』
『メンバーの力を”足し算”じゃなく、いかに”かけ算”できるかってことだったんだ』
(全て15巻128話)

飛雄にはもう、「一人で戦う」という考えはなかった。
飛雄は仲間への「信頼」を覚えたことで、大切なことを少しずつ理解していった。


◆◆【『おれが居ればお前は最強だ』】◆◆
それらの「成長」を成し遂げたことにより、飛雄は青城戦でも焦らず対処できた。
渾身の日向のバックアタックを止められた時でさえ、ムカつきながらも『平常心』を保とうと努められた。
だがそんな飛雄にもピンチが訪れる。

京谷をうまく使いこなす及川に、飛雄は一瞬呑まれかけた。
しかし日向のセリフで持ち直した。

『おれが居ればお前は最強だ!(16巻162話)』

このセリフ、実はとても深い。
一見、かつて飛雄が日向に告げた『俺が居ればお前は最強だ(3巻)』を、なぞっただけのように見える。
または「おれたち2人=”新、変人速攻”なら大王さまにも負けねえ!」という意味なのかもしれない。
だけどそれら以上に、重要な意味が含まれていたのではと思われる。

◆例えばここで「お前は最強だ!」だけだったら、おそらく事態は変わらなかった。
なぜなら飛雄が最強であると日向はすでに言っており(1巻4話)、飛雄も自分が強いことを自覚している。
だから「何を今更」となったと思う。
それに「お前」=「(最強の)”俺が”頑張らないと」と思ってしまっただろうから、飛雄は余計焦りを感じ、視野は狭まっていたかと。

だけど「おれが居れば」を入れたことで「おれはここにいる!」というメッセージになり、飛雄は気付いた。
「そうか、日向がいた」。
そして飛雄は、日向の「技術」を「信頼」してきている。
だから思えた。

「俺は、独りで戦わなくていいんだ」と。

この気付きは余裕を生む。
だから日向がネット間際に跳んだ際もコートがよく見えており、日向の前に「誰(ブロック)もいない」ことに気付け、そこにトスを上げることができた。


◆◆【お前に「託す」】◆◆
それともう1つ。
「日向が打つのは無理」と判断したら、飛雄は他の人にトスを上げていたはず。
そしてこの時のネット間際の速攻は、今までやったことがなかった。
やったことがない速攻を「日向は打てない」。
そう判断し、前の飛雄だったら「日向に上げる」ことはしなかったと思う。

でも「おれに持って来い!」との日向の「要求」、そして「ブロックがいない」ことに気付いた飛雄は日向に上げ、日向はそれを打ち下ろし、「打ち下ろす速攻」は生まれた(決まった)。

この際飛雄は『うまくいってよかったです(16巻143話)』と言っている。
「決まって当然」ではなく「よかった」。
つまり「うまくいくかどうかわからなかった」=「日向がそれを打てるか」わからなかった。
けれど「日向は決めてくれる」と「信頼」し、トスを上げた。

これはまたもや飛雄が、日向に「ボールを託した」瞬間である。

その「信頼」に日向は応えた(決めた)。
これにより飛雄の中で、日向への「信頼」はより深まったと思われる。

だから、最後の最後。
前回ドシャットをくらったので普通なら日向へは上げないと思うし、前の飛雄ならきっとそうしていたと思う。
なのに、飛雄は日向にトスを上げた。
なぜか。


◆烏養さんは『日向の手でブチ破らせる事がベストだと、影山は思ったのかもしれない(17巻148話)』と説明しており、それは「日向ならブチ破れるはず」との「信頼」の証でもある。
及川のセリフがそれを物語っている。
『お前の最強の武器で来い、飛雄!(17巻147話)』

飛雄は、日向なら「ブロックされても打ち抜けるだろう」と「信頼」したからトスを上げた。
もしそれでブロックされても、悔いはなかったはず。
それはモーションを読まれ、日向に3枚ブロックがついた時、飛雄は顔色を変えなかったことからうかがえる。
飛雄が、「新、変人速攻」のトスの先を、日向に完全に「託した」瞬間だった。

飛雄の中で日向への「信頼」が、確かなものになったことの証であると思う。

これらの「精神的な成長」が「技術的な進歩」をもたらし、飛雄たちの前の道は切り拓かれた。


◆◆【先を行く馬鹿】◆◆
ところで及川は日向のことを『飛雄の先を行く馬鹿が現れてしまった(16巻143話)』と表現した。
どういう意味か。

『普通ならためらうところを迷わず突き進む(※)』『バカなところ(※)』が天才っぽいと、及川は飛雄を評した。
(共に16巻143話)
ネットギリギリにトスを上げたことがそれだと思う。
普通なら、あんなギリギリにトスをあげようとは思わないはず。

そんなギリギリのトスを飛雄が上げたのは、日向がネット間際に跳んだから。
日向がそこに跳んだのは、『ブロックがいないところ(日向/16巻143話)』だったから。
普通、ブロックがいなくてもあんな間際に飛んだりしないと思う。
なのに日向は跳んだ。
そして「打ち下ろす速攻」は生まれた。

思えば「変人速攻」も「新変人速攻」も、日向の「要求」に飛雄が応えた結果だった。
飛雄が自分から「やるぞ」と言い出したわけではない。

日向が「迷わず」飛雄にトスを求め、「ためらわず」跳んだことに「飛雄は応え」、「変人速攻」は生まれた。
そして日向が今までの「変人速攻」を「ためらわず」捨て、強くなることに「突き進んだ」ことに「飛雄は応え」、「新変人速攻」は生まれた。
さらに日向が「ためらわず」ネット間際に跳んだことに「飛雄は応え」、「打ち下ろす速攻」は生まれた。

日向が引っ張ったことで、飛雄は「成長」を重ねた。
「飛雄の先を行く馬鹿」という表現は、まさに言い得て妙である。


◆◆【閑話休題/「日向の怒り」と『乗れません』】◆◆
本筋からはそれるけど、青城戦後、谷地が感じた日向の怒りの正体(148話)。
それと青城に勝ったのに喜びを見せない飛雄の心情を、推測してみた。

因縁の相手に勝てたのに、2人共嬉しそうではない。
なぜか?
そのヒントは、及川と飛雄の次の会話に隠されていると思う。

『これで一勝一敗だ。チョーシ乗んじゃねーぞ(及川)』
『乗れません』
(17巻148話)

烏野は青城に勝った。
でもそれは「烏野というチーム」が「青城というチーム」に勝ったのであり、「飛雄」が「及川」に勝ったわけではない。
それは、最後の最後。
及川の超ロングセットアップからの岩泉のスパイクを、澤村と田中が拾った際。
『6人で強い方が強い(17巻146話)』とはっきりと示されている。
つまり飛雄の目標である「及川さんを超える」は、まだ達成されていないことになる。

また、前回(IH予選)の青城戦の時より、烏野はチームとして格段に強くなった。
飛雄と日向の「新、変人速攻」「打ち下ろす速攻」、山口の「ジャンフロ」、チームの「シンクロ攻撃」など。
にも関わらず、勝てたのは「僅差」でだった。
それは烏野はもとより、青城というチームの強さをも証明していた。

青城が「強い」ことはわかっていた。
及川が「強い」こともわかっていた。

けれど、その「強さ」が「どれほどのものだった」かを、この時に初めて「理解した」と思われる。
そして及川と飛雄自身との「力量の差」を、はっきりと感じた。
だから飛雄は「調子に乗れない」と答えたのだと思う。

それは日向も同じだった。
青城の強さが「どれほどのものだった」かを、真に「理解した」。
だから日向は怒った。
『痩せた土地で立派な実は実らない(※)』
『青葉城西は及川以外、弱い(※)』
(※共に牛島/17巻148話)
こう青城を侮辱した牛島に。

『コンクリート育ちの力、見せてやる(17巻148話)』
この日向のセリフにはおそらく、「おれたちが牛島(白鳥沢)に勝つことで、青城の強さも証明してやる」との思いが、込められていたのではないだろうか。


次章◆◆◆【「仲間」への確かな「信頼」/王冠返還】(白鳥沢戦~伊達工戦)◆◆◆