『影山君の王子様/後編1』(赤影、研影、宮影)

後半はアップしないと書きましたが、まだ書き終わらない&最近の本誌の宮の怒涛の攻めにより、だいぶ気持ちがそれてしまっているので、自分を追い込むために少しずつアップすることにしました。
でも最後まではアップしませんので、気になさる方はご注意下さい。(続きは同人誌で!です)

シリーズの初めはこちらです。

 

※春高で烏野が優勝した設定です(ほとんど関係ありませんが)。

※シリーズを通しての注意事項※

    •    無駄に長いです。
    •    菅影描写がありますが、赤影で研影で宮影です。
    •    日影、リエ影などその他キャラ×影山な描写も少しあります。
    •    また、影山がモブ、及川、金田一、国見を好きだった描写も少しあります。
    •    ですが赤影で研影で宮影です
    •    男らしくてかっこいい影山はいません。
    •    影山は「男が好き」な設定です。
    •    宮はほとんど出てきませんが、続き(同人誌)では出まくります。
    •    登場人物の家族関係など色んなものを捏造しています。
    •    『高○家の人々』の設定をお借りしました。
    •    ハッピーエンドです。


 

 

   ✽ ✽ ✽

 十二月上旬。
 家に帰ると宮さんからの荷物が届いていた。
 俺の住所は赤葦さんか研磨さんにでも聞いたんだろう。品名には〈シューズ、水筒〉と書いてある。伝票に書かれた宮さんの字はキレイだった。
 宮さんが預かってくれていた俺の荷物か。もう必要ないと、封を開けることなくクローゼットの奥にしまった。大掃除の時にでも捨てよう。
 送料は着払いではなかったから、母さんにどうすればいいか聞いた。ゲンキンカキトメと言うものを教えてくれたので、それで返した。

 あの日から、三人からは毎日のようにメールや電話があったけど、一度も出なかったし返信もしなかった。メールは未読のまま流れていった。
 三人の夢を見ることはなくなった。空想をすることもなくなった。 
 菅原さんたちには何も言われなかった。笑われもしなかった。赤葦さんたちから、何も聞かなかったのだろうか。
 バレーだけして、バレーのことだけ考えた。それだけで俺は生きていける。

   ✽ ✽ ✽

 十二月中旬。
「影山、赤葦君たちと何かあった?」
 部活後、部室で着替えてると菅原さんに聞かれた。一番聞きたくなかった名前に、思わず体が固まる。遂に、聞いたのだろうか。
 恐る恐る周りを見渡すと、部室内にいるのは俺と菅原さんだけだった。日向たちはいつの間に帰ったんだ。
「…なんで、そんなこと聞くんすか?」
「最近元気ないべ?黒…んんっ。悩みがあるなら聞くぞ」
 優しく笑って告げられた。菅原さんはいつも優しい。今は、この優しさに泣きたくなった。聞いたわけじゃねえのか。よかった。
 …菅原さんを好きなままだったら、こんなことにはならなかった。同時に二人を好きになった時点で止めればよかったんだ。どうして俺は、いつも取り返しがつかなくなってから気付くんだろうな。
「…ありません。あざす。別れたんで関係ねえっす」
「はぁ!?」
 突然叫ばれびっくりした。
「別れたって、いつ!?なんで!?」
「?ユース合宿の時っす」
「影山…その話、詳しく聞かせて」
 笑ってるのに怖い顔で迫られて、とりあえず正座した。
「答えたくないことには答えなくていいからな」
「うす」
 聞かれるまま話をした。

 もう会えないけど好きな人がいたこと、それでもいいからと言われ赤葦さん、研磨さんと付き合ったこと。
 そしたら好きな人がいたことに驚かれた。
「聞いても否定してたし、全然そういうそぶり見せなかったから」
「嘘ついてました、すみません。よかったです」
「何が!?」

 空想してることを、恋してることを誰にも知られないよう、顔に出さない練習をした。俺の中の〈王子様〉も〈友達〉も、とられたくなかったから。相手に気持ち悪く思われたり、嫌われたくなかったから。
 そうして誰にも気づかれず恋し続けた。〈幸せな俺の世界〉を守るために。
 でもそれも、もう必要ねえことだ。

 質問は続いた。
 同じ好きじゃなかったけど、俺も好きだったから嬉しかったこと。少しずつ二人と同じ好きになれたこと。
 ユース合宿で好きな人と再会したこと。その人に告白され、付き合うことにしたこと。合宿が終わった後、二人と別れたこと。…その人ともその日、別れたこと。
 一通り話し終わると、菅原さんは頭を抱えた。俺は黙って次の質問を待った。

(…本当は、三人とも本気じゃなかったんです。からかわれてただけなんです)
(俺が一人で勘違いしてました)
 さすがにそれは、惨めすぎるから言わなかった。
 …いつか、烏野の皆も知ることになるのだろうか、バカな俺の話を。そしたらなんて言われんのかな。
 菅原さんたちにまで笑われたら、多分、無理だ。ここにいてえけど、バレーできなくなるな、多分。
 その時はどこか別の高校に行こう。誰も、俺を知る奴がいないとこに。そこでまた、バレーしよう。母さんたち許してくれっかな。

「…影山さ」
「!」
 名を呼ばれ現実に戻る。菅原さんは頭を抱えたまま、話を続けた。
「赤葦君たちと付き合い始めた頃、相談に来ただろ。『泣きたくなったり心臓爆発しそうになるんすが俺死ぬんですか!?』って」
「…うす」
「なんでよりによって俺にそれ言うかなぁって、ちょっとキツかった」
「?迷惑でしたか。すみません」
 相談しろって言ってくれてたけど、本当は迷惑だったのか。次から気をつけよう。
 菅原さんは困ったように笑った。
「迷惑じゃないからな!俺が勝手にショック受けてただけで…」
「?はあ…」
 よかった、迷惑じゃなかった。ショックって男同士だからか?
「…と同時に、安心したよ。ああ、二人になら影山を任せられるって」
「???」
「お前、本当に幸せそうなんだもん」
「……」
 確かに、幸せでした。
「バレーにしか興味ない、バレーできればそれでいいのかと思ってたけど、そうじゃなかったんだって。それを二人が影山に教えてくれたんだって」
「……」
 それはまるで、夢のような日々でした。
 夢が終わり、遺ったのは無様な男の残骸でしたけど。

 菅原さんは真剣な表情で俺を見つめた。
「…影山は、どうして赤葦君たちと別れてその人と付き合おうと思ったんだ?赤葦君たちのこと、あんなに好きだったのに」
 目の前が真っ暗になる。言える、わけねえ。
「………すみません、祝ってくれたのに」
「いや、それはいいんだ。気に障ったらごめん」
 答えになってねえのに、変わらず優しい。ああ、この人を好きなままだったら幸せでいられたのに。
 ひどく気まずそうな表情で、菅原さんは言葉を続ける。
「…その人のこと、そんなに好きだったのか?なのにどうして、その人とも別れたんだ?」
「……………」
 固い声が問い続ける。

「……なにか、されたのか?」

『聞かれへんかったからや』

 やめてください菅原さん。あの人たちを、これ以上思い出させないで下さい。
「…………………バレー…」
「?バレー」
「バレーが、あればいい」
「…どういうこと?」
「バレーができればそれでいいです。好きな人はもういらないです。バレーだけしたいです」
「……っ影山」
 菅原さんは目を見開くと、何かを言おうと口を開いては閉じて、を繰り返す。優しい目元がにじんでいるように見えるのは、気のせいだろうか。
 これ以上何も聞かないで下さいと心の中で呟きながら、菅原さんの後ろのカゴを見つめた。カゴにはたくさんのバレーボールが入っている。早く明日にならねえかな。

 しばらくすると、小さな息を吐く音が聞こえた。
「…俺思うんだよ、バレーってさ、影山にとって空気と同じだって」
「?違います」
 空気とバレーは全然違います。大丈夫っすか?
「比喩だよ比喩。あって当たり前、それがないと生きていけない」
「!っす」
 わかります。空気ないと息できません。死にます。
 バレーないと無理です。多分死にます。
「だべ!でもさ、人ってそれだけで生きてけるものでもないべ」
「?」
  
「空気だけあっても、幸せにはなれないべ」
 
 息が、止まる。
 菅原さんは寂しそうにほほ笑んだ。
「そのうちまた、好きになれる誰かに出会えるよ。だからそんなこと言うなって」

 ずっと夢見ていた。ずっとずっと欲しかった。やっと手に入れられたと思った。けれど全てが夢で、幻だった。
 シアワセな結末はいつだって、〈お姫様〉と〈王子様〉。〈お姫様〉でなければそれを得られないのだと、こうなって初めて気づく。
 男の俺が〈王子様〉とシアワセに、なんて、ミノホドシラズな夢を見た。あの時感じた絶望は、その代償だったんだ。あんな思いをするくらいなら、もう二度と、夢は見ない。
「…………そういうのは、もういいです」
 菅原さんが息を飲むのがわかった。なにか、まずいことを言っただろうか。
 膝上に置いた、自分の両手の爪を見た。

「……好きだった人って、男、だよな?」
 聞こえてきた言葉に体が強張る。何も言ってねえのに、なんで。
 やっぱり聞いたんすか?…本当は菅原さんも俺のこと、笑ってたんすか?
「…なん、で」
「?…!なんとなくそうかなって。からかったり責めたいわけじゃないからな!」
 ひどく焦ったその声に嘘じゃないと判断し、恐る恐る顔を上げる。菅原さんは俺と目が合うと笑みを浮かべ、頭を下げてきた。ああ、大丈夫だ。
「…っす」
 菅原さんもなぜかホッとしていた。
「…俺はさ、影山には幸せになってほしいよ」
「…あざっす。バレーできるので幸せです。俺も菅原さんにシアワセになってほしいです」
 そんなこと言ってくれるの菅原さんだけです。でもそれは、もういいです。さっき言いました。バレーだけでいいです。 
「…ありがとな」
「!っす」
 嬉しそうにほほ笑まれ、俺も嬉しくて笑った。

 しばらく笑いあってたら、菅原さんは悲しそうな顔をした。?なにか辛いことあったんすか?
「………俺じゃ、ダメ?」
「…?」
 なにがっすか?聞こうとした俺の両手は、菅原さんに強く握りしめられた。

「俺が影山を、幸せにできないかな」 

 初めて見る表情で告げられ、びっくりする。
 なんでそんな真剣な顔してるんすか?ここはコートじゃないです。なんで、手、そんな震えてるんすか。
「…?烏野好きです、バレーできます。幸せです」
 優しい、かつての俺の《王子様》。勝手に王子様にして空想しまくってたのはスンマセン。
 でも大丈夫です、ふさわしい〈お姫様〉が、どこかにいます。菅原さんなら、〈お姫様〉とシアワセになれます。
俺なんかに構わず、菅原さんのシアワセを見つけて下さい。
「……そうだな」
「!」
 伝わった。よかった。
 菅原さんは俺の両手を離した。
「俺じゃお前を、笑わせることもできないもんな」
「?笑ってます」
 ちゃんと笑ってます。怖いとは、言われますけど…。だからそんな、泣きそうな顔しないで下さい。
「大丈夫だからな、影山」
「?」
「いつかまた、笑えるようになるから…」
「?笑えてます」
 だから笑ってますって!なのにどうして、そんな泣きそうなんすか?俺はちゃんと笑えてます! 

 その後菅原さんは、三人分の電話とメールの拒否設定をしてくれた。
 その日から俺の携帯は、ほとんど振動しなくなった。赤葦さんと研磨さんに出会う前の状態に戻った。
 けれど一度ついてしまった癖は、しばらくなくならなかった。ふとした時に携帯をチェックしてはあの人たちを思い出し、激しい後悔に襲われた。
 その度に無性にバレーがしたくなった。

   ✽ ✽ ✽

 十二月二十二日。
 十六歳の誕生日を迎えた。部室に行くと皆が祝ってくれた。嬉しかった。
 部活後は、ケーキとポークカレー温玉のせで祝ってくれた。谷地さんと清水さんの手作りだった。嬉しかった。田中さんたちも泣いて喜んでた。
 プレゼントももらった。ハンドクリームとアロマオイル?とかいうものだった。嬉しかったけど、オイルはいつどうやって使うんだ。悪い夢を見ないようにって言われた。毎日ぐっすりです。
 いっぱいお礼言って、いっぱい笑った。あの日から、こんなに笑ったのは久しぶりかもしれない。
 なのに。
「…お前、本当に笑わなくなったな」
「?笑ってます」
 変な顔した田中さんに言われた。皆も変な顔してた。
 なんでだ。こんなに笑ってるのに。
「お前は俺と、一生バレーするんだからな!」
「!おう」
 偉そうに言った日向は、なぜか泣きそうな顔をしていた。お前のそんな顔初めてだ。あんま好きじゃねえな。
「…とりあえず王様はバレーしてなよ。暇だったら練習付き合ってあげるから」
「!?お前熱でもあんのか?」
 思わぬ月島の言葉に、何か企んでるんじゃないかと身構える。言われなくてもするわ!
「ツッキーは影山を心配してるだけだから」
「山口」
「…ごめんツッキー」
 …心配。月島が?
「?心配するようなこと何もねえよ」
 こいつ以外といいとこあるんだな。疑って悪かった。でも俺は平気だぞ。
 安心させようと言ったのに、月島も山口も顔を歪めるだけだった。何でお前ら、そんな顔するんだ。

 笑ってるのに笑わなくなったと言われる。平気だと言っても変な顔をされる。
「…俺、どっかおかしいのか?」
 バレーできるから気にしねえけど、皆は気にする。どこがおかしいのかわからない。ダメなのか?だからそんな顔するのか?
 ダメだと言うなら直します。ここでバレー、したいです。だから教えて下さい。
「…どうしたらいいんすか」
 澤村さんはハッとしたように、慌てて口を開いた。  
「大丈夫、影山がおかしいわけじゃない」
「!」
 よかった。澤村さんに言われると安心する。
「月島の言う通り、影山はバレーしてればいいんだよ。時間が解決してくれることもあるから、それを待てばいいと思うよ」
 縁下さんに頭を撫でられる。くすぐったかった。でも時間は過ぎるものです。解決するのは問題です。バレーするのに待つってどっちっすか???
「あいつら、マジで許さねえ…」
 影山をこんな風にしやがって!
 木下さんの怒る声が聞こえた。この人がこんな怒るの初めて見た。
 あいつらって誰っすか。なにされたんすか。なんで俺が関係あるんすか?俺で力になれますか?なんで皆頷いてるんすか?俺にもわかるように話して下さい。
 その後、それらの話題に触れられることはないまま、和やかに会は終了した。今までで一番嬉しい誕生日だった。
 
 家に帰ると、小さな荷物が三つ届いていた。赤葦さんと研磨さん、宮さんからだった。品名にはそれぞれマフラー、手袋、イヤーカフと書いてある。開けないままクローゼットにしまった。
 両親からは新しい財布をもらった。嬉しかった。早速使おう。

   ✽ ✽ ✽

 十二月二十五日。
 三人からクリスマスカードが届いた。
 見ることも返事を出すこともしないまま、他の荷物と一緒にクローゼットの奥にしまった。

   ✽ ✽ ✽

 年が明け、一月。
 年賀状いっぱいきた。嬉しかった。返事書いた。宛名書くのめんどくせえけど、嫌じゃなかった。
 三人からも届いた。迷いに迷い、真っ白な年賀状を返した。

   ✽ ✽ ✽

 春高前日。
 東京の宿に到着後、俺と日向は月島と共にロードワークに向かった。
 ロードワークから戻ってくると、宿の前に赤葦さん、研磨さん、宮さんがいた。
 頭が真っ白になる。どうして。
「久しぶり、影山」
 赤葦さんがにこやかに近づいてくる。
 体が動かない。逃げたい、逃げたら笑われる、返事をしなければ、いやしたくない、荷物捨ててなかった、そのことで?違う、明日から春高で、息ってどうやって、するんだ?
「今更なんの用ですかぁ?」
「影山に近付かないで下さい!」
 気付くと目の前に、月島と日向が立っていた。
「…?」
「…二人には関係ない。俺は影山に」
「チームメイトですから関係あります。赤葦さんこそ関係ありませんよね?別れたって聞きましたよ」
「俺は認めてない」
「それストーカーのセリフですよ。警察呼ばれてもいいんですか?」
「翔陽、そこどいて」
「絶対嫌だ!おれは許さねーからな!」
「飛雄くん誤解しとるだけなんよ」
「誰ですかお前は!」
 なぜか三人と話し始めた月島、日向のおかげで呼吸が落ち着いてくる。そしてようやく現状を理解する。なんで、こいつらがいるんだ。
 月島の後ろからそっと見ると三人ともジャージ姿で、でけえ紙袋を持ってた。春高に出場するんだ、そういえば。だとしてもなんでここに?同じ宿じゃねえよな。
 …まさか、このタイミングでバラしに。
「!っ飛雄くん!春高が終わったらもっぺん話したいねん」
「!ちょっと…」
 月島越しに突然話しかけられ、身がすくむ。思わず月島のジャージを掴むと、月島の声が一瞬止まった、気がした。 
「…王様は話したくないそうですよ」
 なんでわかるんだ月島。そうだ、もっと言ってやれ。
「…飛雄、聞いて欲しいことがある」
「影山は聞きたくないってよ!」
 !お前もよくわかったな。その通りだ日向。今度トスいっぱい上げてやる。 
「…影山、俺たちと賭けをしないか」
「「は?」」

 赤葦さんの話はこういうものだった。
 三人のチームと烏野が対戦する場合。烏野が敗北したらもう一度話し合いの席に着く。対戦する前に烏野が敗退しても同じ。
 烏野が勝利したら回数分、烏野メンバー分の高級焼肉をおごる。

 俺は頷いた。そしたら月島に止められた。
「やめなよ、王様の分が悪すぎる」
「?俺はどこも悪くねえ。焼肉食いたくねえのかよ」
「…負けたら話し合いなのに平気なの?君」
「?優勝すればいいだろ」
「よく言った」
「!?っ」
「バレーのことになるとマジ強気だよな。慣れないけど」
 いつの間にか後ろにいた澤村さんに肩を叩かれ、菅原さんに頭なでられた。ちょっと痛かったけど嬉しかった。月島は変な顔してた。
「絶対負けねえからな!」
 日向の叫ぶ声が聞こえた。当たり前だ。

 その後三人は澤村さん、菅原さんと少し話をして帰って行った。最後まで顔はまともに見られなかった。
 俺のことをバラシに来たのかと思ったけど、違った。よかった。テキジョウシサツってやつか?
 月島と日向は澤村さんたちに、すごい勢いで話しかけてた。『なんで教えたんですか』『一人増えてましたけど誰ですか』『俺は反対したんだけど』『一回くらいチャンスを』とか聞こえるけど、なんの話だ?

 その日の夕食は盛りだくさんだった。温玉のせポークカレーにサンマ、焼肉、メロンまで。
 なんでこんなに豪華なのか清水さんに聞いても、笑顔で返されるだけだった。谷地さんは困ったような顔してた。ケイキヅケってやつか?あざす。
 飯に罪はねえって言いながら皆は食ってた。なんの罪すか、カレーうまいっす。俺の分のメロンは日向にやった。
 なぜか皆にすげえ心配されたので、あんま好きじゃないって言った。意外そうな顔をされたけど納得してくれた。よかった。

 ついに始まった春高。宮さん、研磨さんとは試合の前に軽く挨拶をした(これもバレーの試合と思えば平気だった)。梟谷との対戦はなかった。そして連日の激戦の末。
 俺たちの優勝で幕を閉じた。
 今までにないくらい嬉しかった。皆泣いて笑ってた。俺も泣いて笑った。でも俺を見ると変な顔してた。なんでだ。
 閉会式の後は応援してくれてた人たちと高級焼肉食った。すげーうまかった。
 
 その後、三人に会うことはなかった。

 

 

 

2へ続く