【3】の続き

 

 

 

”好きだよ、黒子っち”
”中学の時から、ずっとずっと好きだった”
”いつか青峰っちも、火神っちも越えてみせる”
”だからオレと、付き合ってください”
それは、ボクの誕生日。
誠凛のみんなが開催してくれた、ボクの誕生日パーティーの帰り。
黄瀬君に呼び出された公園で、告げられた言葉。
これを告白だと理解したのは、”絶対、幸せにするっスからお願いします!”と黄瀬君が手を伸ばしてきたから。
頭が理解するより先に、体が喜びの声をあげた。
歓喜に震える体を抑え、ようやく音を紡ぎ出す。
”…っもう、幸せです”
熱い抱擁で返され、黄瀬君の匂いと、服越しに伝わる温もりと、締め付ける体の痛みが、現実なのだと教えてくれた。
”ボクも、黄瀬君が、大好きです”
それは、永遠に口にすることは叶わなかったはずの言葉。
”夢みたい”
泣きながら抱きしめてくれる黄瀬君を、ボクも強く抱きしめ返す。
この温もりを、ずっと感じていたい。
まるで世界に、二人きり。
このままキミと溶け合って、1つになってしまえたら。
そんなバカなことを願わずにはいられなかった、あの、冬の夜。

世界はどこまでも優しく。
月明かりに照らされた銀世界が、いつまでも輝いていた。

この時ボク達は、確かに、幸せだった。




晴れて恋人同士になったボク達は、そのことをバスケ部の先輩や友人達に報告した。
皆は驚きながらも祝福してくれた。
男同士なのに、非難の声は1つもなかった。
いい友人と先輩に恵まれた幸運に感謝した。


いつまでも続くと思っていた幸せな日常に翳りが見え始めたのは、付き合って3ヶ月後。
もう何度目ともなる、黄瀬君の家に誘われた時だった。
その日の黄瀬君は、朝から落ち着きがなかった。
黄瀬君のベッドにもたれかかり本を読んでいたボクに、意を決したような声がかけられた。
”今日、家誰もいないんス”
”泊まってかないっ、スか?”
ボクを見つめるその目は、確かに熱を孕んでいた。

心臓が止まるような衝撃だった。
恐れていた時が、ついに来たのだ。
動揺を悟られないよう、無言で頷いた。
ボクに飛びつき喜ぶ黄瀬君とは対照的に、心臓は冷えて行く一方だった。
大丈夫、大丈夫。
この日がいつか来ることはわかっていたはずだ。
それがたまたま今日だっただけ。
ボクは黄瀬君が好きで。
黄瀬君もボクを好きだと言ってくれる。
男同士ではあるけれど、それ以外、なんの問題もない。
…はずだった。


結果として、行為はボクの拒絶によって中断された。
キスをするのも抱きしめ合うのも、もう何度も重ねたことだった。
だけどどうしても、それ以上が無理だった。
黄瀬君がボクの服に手をかけ脱がそうとするだけで。
服の中に手を入れ、触るだけで。
拒否反応が、ボクを襲った。
手はボクの下半身へとのばされ、どうしようもない不快感がこみあげ


”いやだっ!!”

気付いた時には、最悪な音となって放たれていた。
世界が止まったような気がした。

恐る恐る黄瀬君を見たボクの目に飛び込んできたのは、今にも泣き出しそうな、傷ついた子どものような表情の彼だった。
鼓動がドクドクと脈をうつ。
何かを言おうとするのに、音にはなってくれない。
怖い、怖い、怖い、だけど、言わなくちゃ。
言わないと。
キミが嫌なわけじゃないんです。
ただ、まだこういうことはしたくないんです。
キミのことは大好きなんです。
だから、

”っ嫌わないで、ください”

黄瀬君に抱きしめられていた。
”どう、して”
”黒子っちが泣いてるから”
視界が歪んでいたのはそのせいだと気付く。
黄瀬君はあやすように背中をなでてくれる。
”ごめん、なさい”
”ううん、いいんス。急ぎ過ぎちゃったみたいっスね”

”黒子っちが大切だから、黒子っちがいいと思えるまで待ってるっス”
そう優しく抱きしめてくれるから、ボクは涙が止まらなかった。
ごめんなさい、黄瀬君。
優しいキミをだまして。
今はまだ、できないけれど。
いつかキミを受け入れてみせるから。
それまで、どうか。



【次へ】